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日中医学協会ブログ

パンデミックインフルエンザ等新興/再興感染症等対策プロジェクトを行いました

2018/12/26

パンデミックインフルエンザ等新興/再興感染症等対策プロジェクトを行いました

2015年度に続き独立行政法人国際協力機構(JICA)より中国国別研修「感染症予防及び対策」を受託し、12月4日から12月11日の6日間の日程で研修を行いました。本研修の目的は、発生が危惧されているパンデミックインフルエンザに関して中国中西部を含む広い地域における感染症対策の強化です。もっと言えば、本邦への感染症の輸入リスク軽減に繋がることが期待されます。研修のゴールは三つあり、1)パンデミックインフルエンザの予防及び発生時の早期封じ込め対策、2)感染症の早期診断・治療・蔓延防止、3)薬剤耐性菌対策を含む院内感染症対策の強化で、それぞれにおける日本の体制や対策を理解することです。中国研修団は、呼吸器内科、感染症科、救急科、ICU、皮膚科の医師ならびに看護師から成り、総勢15名でした。なお、本研修の計画立案と実施にあたっては、国立国際医療研究センター 国際感染症センター長 大曲貴夫先生の全面的なご指導・ご助言を賜りました。

 

(研修1日目)

JICA東京研修所会議室において、第一回の講義が始まりました。講師は厚生労働省健康局結核感染症課新型インフルエンザ対策推進室長の丹藤昌弘先生で、監督官庁の視点から日本の新型インフルエンザ対策の現状についてご講演頂きました。日本では、2009年の新型インフルエンザ流行で混乱した反省を踏まえ迅速に新法を制定したこと、新型インフルエンザ対策の方向性は感染者数のピークの抑制ならびに流行ピークを遅らせることであり、対策実施のため厚生労働省では10のガイドライン(サーベイランス、情報提供共有、水際対策、蔓延防止、予防接種、医療体制ほか)を策定していることを丁寧に解説くださいました。質疑応答では、日本では鳥インフルエンザは発生していないのにこれだけの綿密な対策を行う理由、新型インフルエンザでは発生初期は4つの特定施設で集中治療するが、蔓延期では各病院に分散して治療にあたることから集中治療と分散治療の区分について、診断確定までの待ち時間における患者の隔離、各病院への情報のフィードバックにおける国の関与などについて活発なディスカッションがなされました。

  

     丹藤先生ご講演             研修の様子(於JICA東京)

 

研修二日目)

全国で3カ所8床ある特定感染症指定医療機関の1つ(4床)に指定され、国際的感染症の高度専門医療施設である国立国際医療研究センター(NCGM)を訪問しました。NCGM国際感染症センターの大曲貴夫センター長から講義を受け、その後、NCGM内の新感染症病棟を見学しました。大曲先生の講義では、2009年新型インフルエンザ流行時の反省を踏まえ、全国一律ではなく地域毎に感染症対策を行う重要性について、また地域医療機関においても事業継続計画書(BCP)の作成が必要とされ、BCPがない施設の場合は特定接種を受けられないことなどを講義されました。中国医師から、プレパンデミックワクチンの処方、ガイドラインにおける漢方薬の扱い、新型と季節性インフルエンザ患者の鑑別診断がでるまでの患者の院内待機の仕方、新型インフルエンザワクチンの副反応比率など、沢山の質問がありました。

 

 

 

 

  

  

    大曲先生のご講演             講義風景(於国立国際医療研究センター

大曲先生の講義に続き、新感染症病棟を見学しました。国際感染症対策室長の忽那賢志先生に案内していただき、患者が入っていないため病室の中まで見学をさせてくださいました。新型インフルエンザや新感染症患者の治療と隔離防御対策、それに必要なスタッフの訓練、様々な設備や機器について、多くの質問があり、忽那先生が一つひとつ丁寧に回答されていました。


   
      新感染症病棟見学             忽那先生との質疑応

 

(研修三日目)

厚生労働省所轄の研究機関で、感染症の予防、治療に関する科学的研究を担う国立感染症研究所(戸山庁舎および村山支所)を訪問しました。戸山庁舎では、感染症疫学センターの高橋琢理先生から新型インフルエンザ対応のサーベイランスの調査項目と情報収集・還元体制、データベース(NESID)について講義を受けました。さらに同センターの佐藤弘先生からは、日本における感染症流行予測調査に基づくインフルエンザ抗体保有の経年変化について解説頂きました。中国医師から、サーベンランスデータの質の確保について、中国では情報提供に関して機能の重複があるが日本ではあるか、5000の定点病院の選定方法について、次シーズンのワクチン製造のためのウィルス株の選定について、などの質問がありました。

  

 

 

 

 

 

    高橋先生ご発表                佐藤先生ご発表

 

戸山庁舎を後にし、午後は国立感染症研究所村山支所にあるインフルエンザウィルス研究センターを訪問し、講義と見学を行いました。講義では、当研究センターの機能と体制、インフルエンザの動物モデル、パンデミックインフルエンザの実験室診断、インフルエンザ新規ワクチンの開発と供給・備蓄について学習しました。講師は、浅沼秀樹第六室長、影山努第二室長、鈴木康司先生が務められました。中国側医師からは、経鼻ワクチン(生ワクチンから不活性化ワクチン)の開発状況やパンデミックワクチンの製造期間について質問がありました。見学では、患者検体調製やインフルエンザ遺伝子PCR測定を行う実験室、実験動物飼育施設、ワクチン検定室などを視察しました。臨床の医師の皆様には実験施設は珍しく新鮮に映ったようでした。 

   

 

 

 

 

 

    浅沼先生の講義風景            鈴木先生、浅沼先生、影山先生

 

(研修四日目)

JICA東京会議室において、国立健康医療科学院健康危機管理研究部の齋藤智也先生より、パンデミックインフルエンザ対策においてキーとなる行政と医療機関の連携強化を目的とした対策訓練の事例について映像や演習シナリオを用いて分かり易く説明くださいました。中国医師からは、訓練の頻度、災害における自治体の役割、重症感染症患者を病院に搬送する救急車内での治療やその運営体制についてなど、様々な質問がありました。

午後は、順天堂病院に場所を移し、順天堂大学大学院感染症制御科学の堀 賢教授より、2009年に流行した新型インフルエンザへの対応で発生した問題(発熱外来への優先的誘導、ワクチン共有のアンバランスなど)を教訓として、実地医療で遭遇する新興感染症の対策について講義を受けました。中国医師からは、患者を性別やインフルエンザ種別に分けて大部屋で集団隔離することや、検体測定後のチューブ廃棄処理の際のバイオセーフティーレベル、空調管理(陰圧)や除染消毒剤の種類などについて実地医療にすぐに役立つような細かい質問も多数ありました。

  
    齋藤先生の講義風景                 堀先生の講義風景

 

(研修五日目)

地域における感染症対策、健康危機管理対策、薬剤耐性菌問題への対策といった観点で、地方衛生研究所(中国における省CDCに相当)の一つである川崎市健康安全研究所と、地域医療推進機構の一員で地域包括ケア病棟や細菌検査室を有する横浜保土ヶ谷中央病院の二か所を視察しました。川崎市健康安全研究所では、岡部信彦所長から川崎健康安全研究所の体制と役割(健康管理、食品検査、水質検査)について、同研究所企画調整部の三崎貴子部長から研究所と情報センターの業務(試験検査、調査研究、研修指導、情報発信)について受講しました。試験検査室の見学では、パネルの前で各検査室の責任者より詳しい説明が行われ、中国医師から沢山の質問がありました。

   

        岡部先生のご講演        ラボツアー(於川崎健康安全研究所)

 

横浜保土ヶ谷中央病院では、後藤英司院長のご挨拶の後、総合診療科医長の八百壮大先生の計らいで、二チームに分かれ感染対策ラウンドと称して病棟、外来、薬剤部などを視察しました。

  

 

 

 

 

 

     後藤英司院長ご挨拶           病棟見学(於横浜保土ヶ谷中央病院)

講義では、八百先生から保土ヶ谷中央病院におけるインフルエンザ・アウトブレイク防止の具体的取り組み、薬剤耐性菌対策、施設間連携について講義を受けました。2015年から職員へワクチン接種を徹底、マスク自動販売機を設置、面会の導線の改善などに取り組んだこと、今後は市域への予防接種プロモーション、高齢者軽症患者への訪問看護などを計画中とのことでした。保土ヶ谷中央病院では院内研修時に国際医療研究センターから派遣される感染症専門家の講義を受けるそうです。今回の研修でも国立国際医療研究センターから森岡慎一郎医師が来院され、高齢者施設における薬剤耐性菌問題について講義されました。中国医師からは、耐性菌をもつ患者への対応(転院の場合の受け入れ)、耐性菌の情報公開サイト(厚労省JANIS)の紹介、CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)対策のガイドラインや抗菌剤使用のガイドラインに関することなどに質問が集中しました。

 

 

 

 

 

 

 八百先生のご講演                森岡先生のご講演

 

(研修六日目、最終日)

静岡県立静岡がんセンターを訪問しました。本センターでは、がん診療全般とそこでの感染症対策を学ぶことが主目的ですが、本センターはがん患者と家族に寄り添う医療の実現に高度に配慮された有数の施設です。まず、緩和医療科参与の安達勇先生から、日本におけるがん全般、静岡がんセンターの概要と理念についてお話がありました。次に、感染症内科部長の倉井華子先生から、各診療科へのコンサルテーション、感染対策(MRSAESBLのような耐性菌の抑制、発熱性好中球減少症患者への対応)、予防(ワクチン接種)について講義を受けました。中国医師からは、ホスピス入院への抵抗感や保険適用の有無、ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)の発生状況など中国国内との差異に関する質問が沢山ありました。倉井先生からも中国医師団に質問されて活発なディスカッションになり、大変良い雰囲気でした。耐性菌対策への関心は極めて高いことが分かりました。静岡がんセンター視察時には新聞社のインタビューもあり、団長の王一民医師が代表して答えておられました。翌日の朝刊にさっそく中国医師団訪問の記事が掲載されておりました。

  

 

 

 

 

 

  倉井先生(左)と 安達先生(右)        講義の様子(於静岡がんセンター)

 

 

 

 

 

 

 

   緩和医療科病棟の見学              新聞社インタビュー

 

(研修終了後)

JICAより本研修に参加された中国医師団のアンケート結果がフィードバックされました。それによると研修員全員が今回の研修成果は十分達成することができたと判断していること、また研修内容が豊富で実用性があったこと、日本の感染症予防対策が中国国内の体制構築に参考になること、などの意見がありました。要望としては今回の研修では採り上げられなかった保健所の研修希望がありました。今回中国医師団は、中西部を含む中国各地から来ておられましたが、どの方も積極的に講師に質問し、議論に参加し、真剣に研修を受けておられました。研修合間や移動時は皆さん和気あいあいと打ち解けた雰囲気でした。本国に帰られてから今回の研修成果が実地医療に役立てられることを願っています。